大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和53年(ネ)3201号 判決 1979年8月29日

控訴人

長崎会一こと

鄭会一

被控訴人

鈴木定司

右訴訟代理人

鈴木守

主文

原判決を取り消す。

本件を千葉地方裁判所八日市場支部に差し戻す。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴人は、「訴外鈴木建設株式会社が訴外(原審脱退被告)桜井清に対し、金銭消費貸借契約に基づいて負担した三七〇万円の債務について、被控訴人及び訴外鈴木眞一郎は連帯保証人となり、その契約の公正証書を作成することの承諾をし、鈴木建設株式会社に対して右作成に必要な印鑑証明書及び委任状を差し入れ、公正証書作成嘱託につき権限を付与し委任したものである。」と述べ、<証拠省略>。

被控訴代理人は、「控訴人の主張事実を否認する。」と述べた。

理由

職権をもつて調査するに、記録によれば、原審における本件訴訟の経過として、およそ次の事実を認めることができる。

被控訴人は、桜井清を被告として原裁判所に対し昭和五二年一二月五日本訴を提起し(同裁判所昭和五二年(ワ)第一五三号)、訴状が同年二月一三日同人に送達されて訴訟が適法に係属したところ、控訴人はその直後の同月一七日原裁判所に「独立当事者参加の申立」なる書面を提出した(同裁判所昭和五三年(ワ)第二三号)。訴状によれば、被控訴人の請求の趣旨は、「被告から原告に対する、被告と原告、訴外鈴木建設株式会社、同鈴木眞一郎間の東京法務局所属公証人山口一夫作成昭和四八年第二一一七号金銭消費貸借契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。」というのであり、右「独立当事者参加の申立」書によれば、控訴人を独立当事者参加人、被控訴人を原告、桜井清を被告と表示した上、参加の趣旨として、「右原被告間の御庁昭和五二年(ワ)第一五三号請求異議訴訟事件につき、独立当事者参加人は民訴法七三条、七一条の規定に基づき参加の申立をする。」と掲げ、参加の理由として、「被控訴人主張の公正証書に表示された債権は、昭和五三年一月一七日桜井清から控訴人に譲渡され、桜井清は同月一八日被控訴人に到達の書面をもつて被控訴人に債権譲渡の通知をした。よつて、控訴人は右公正証書に基づく債権者としての被告の地位を承継したもので控訴人は右公正証書につき承継執行文の付与を受けている。右の次第で、民訴法七三条、七一条により参加の申立をする。」旨の記載がある(原被告に対する請求は掲げていない。)。そして右申立書は昭和五三年三月一日被控訴人に、同月六日被告に、それぞれ送達された。右事件は、第一回口頭弁論期日が同年三月一日午前一〇時に開かれ、原告たる被控訴人の訴訟代理人及び参加人たる控訴人が出頭した上(被告は不出頭)、被控訴人の代理人が訴状を陳述し、被告の答弁書(原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との裁判を求める旨及び請求原因の記載がある。)の陳述が擬制されて弁論の続行となり、次回期日に同年四月五日午前一〇時が指定された。右第二回口頭弁論期日も前回同様の当事者の出頭状況の下に、控訴人が「独立当事者参加の申立」書を陳述すると共に、「原告の主張する請求の趣旨、原因に対する答弁は、被告の答弁と同一である。」との陳述をし(なお被控訴人の代理人から書証の提出と人証の申請があり、被控訴人本人尋問が決定されて)、同年五月三一日午前一〇時三〇分の次回期日が指定され、その後右期日は二度にわたり変更され、同年一一月八日午前一〇時三〇分が次回期日に定められたが、同期日の到来前の同年八月二一日、被告から、独立当事者参加人の参加があつたので、民訴法七二条により脱退する旨記載した「訴訟脱退の申立」なる書面が原裁判所に提出された。第三回口頭弁論期日(同年一一月八日午前一〇時三〇分)には、控訴人及び被告が共に出頭しないまま(前回決定の被控訴人本人に対する尋問が施行されたほか)、被控訴人の代理人が「被告の訴訟からの脱退に同意する。」旨の陳述及び昭和五三年四月五日付準備書面の陳述をしたこところで、弁論が終結され、同年一一月二二日午後一時を判決言渡期日とする旨告知されたが、これについては被告に送達されていない(なお、被告に対する右第三回口頭弁論期日の呼出も、呼出状不送達で行われていない。)。以上の弁論に基づいて、原裁判所は、右同日、原判決を言渡したが、原判決の当事者欄には、原告に控訴人、脱退被告に桜井清、当事者参加人に控訴人をそれぞれ表示し、主文(第一項)には、「脱退被告から原告に対する、同被告と原告、訴外鈴木建設株式会社、同鈴木眞一郎間の東京法務局所属公証人山口一夫作成昭和四八年第二一一七号金銭消費貸借契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。」との記載がある。右判決に対する控訴事件が本件である。

以上のとおり認められるところ、右事実によれば、原裁判所は、控訴人が原裁判所に「独立当事者参加の申立」なる書面を提出したことにより、控訴人が民訴法七三条、七一条に基づいて当事者参加の申立をしたものと解し、その後被告が民訴法七二条に従い相手方の承諾を得て訴訟から脱退したものと認めて、爾後の手続を進行し、判決に及んだことは明らかである。そして、控訴人の右「独立当事者参加の申立」なる書面の提出は、同書面の記載内容からして、控訴人において民訴法七三条に基づく承継参加を申し立てる意図のものであつたことは疑いをいれない。

ところで、訴訟の係属中、訴訟の目的物の譲渡があり、当事者適格が移転した場合、新たに当事者適格を承継した第三者が訴訟の承継をするには、右第三者が積極的に参加の申立をするか(民訴法七三条の承継参加)、従前の当事者から右第三者をして訴訟を引き受けさせることの申立をするか(同法七四条の訴訟引受)の二つの方法があるが、前者の方法、すなわち民訴法七三条の承継参加の場合は、同条が「第七十一条ノ規定ニ依リテ訴訟参加ヲ為シ」と定めているので、規定の文言上、同法七一条の独立当事者参加の申立の手続により、参加人は、従前の訴訟の当事者双方を相手方とし、各別に自己の請求を掲げ、それについて判決を求めるのでなければならず、その方式によらない参加の申立は、あたかも訴状に請求の趣旨の表示を欠くと同様、適式な承継参加の申立とは認められないと解すべきである。

しかるに、控訴人が原裁判所に提出した「独立当事者参加の申立」書は、前示のように――従前の訴訟の当事者双方を相手方とし、かつ、申立の根拠として民訴法七三条のみならず、同法七一条まで掲げているとはいうものの――従前の訴訟の当事者に対する請求はなんら掲げられておらず、第二回口頭弁論期日における右申立書の陳述に際しても、控訴人は、単に「原告の主張する請求の趣旨、原因に対する答弁は、被告の答弁と同一である。」と附陳するにとどまり、その後弁論の終結に至るまで右申立書を補正し、参加申立に掲ぐべき請求を明示した形跡は認められないから、右「申立」書は、承継参加の申立としては不適式であり、これをもつて、いまだ同申立とは認めえないといわなければならず、ひいては、控訴人が右「申立」書を提出し、口頭弁論期日にその陳述をしたからといつて被告は訴訟から脱退することはできないといわなければならない。そうだとすると、原審としては、控訴人の参加申立について釈明権を行使し、控訴人が従前の訴訟当事者に対する請求を掲げるのであれば、これを補正させた上、爾後の手続を進めるべきであつたのである(そして、その上で、被告が同法七二条により脱退すれば、訴訟は原告(被控訴人)と参加人(控訴人)との間にのみ係属することになり、その間に審理判決が行われることになる。)。ところが、原審はかかる措置に出ることなく、控訴人の前記「申立」書を同法七三条の承継参加の申立と解し、被告の訴訟からの脱退を認め、訴訟が控訴人と被控訴人間にのみ係属しているものとして爾後の手続を進め、判決の言渡をしたのであつて、その訴訟手続には重大な瑕疵があり、ことにいまだ本案判決の対象となる控訴人の請求が存在しないのにかかわらず、前記のとおり判決をし、他面、依然、訴訟が係属していたと認められる原告(被控訴人)の被告(桜井清)に対する請求について判決中に判断をしなかつた違法をおかしたものといわなければならない。従つて、控訴人と桜井清間の訴訟は、依然原審に係属していると目すべきであるから、右訴訟手続において、本件につき釈明権行使のうえ適切な判断をさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、原判決を取り消し、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(大内恒夫 新田圭一 真栄田哲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例